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一年の計は元旦にない

一年の計は元旦にない。
元旦だけではとてもたりない。

毎年、元日前後の1週間は
追い込んで勉強する。

朝7時からする。

正月もする。

まわりが、杯を含んでる間にする。

まわりと、まざらないように
誰もやらないことをやる。

まざると、比較される。

比較には、
競争が発生する。
競争は消耗する。
競争は不毛を生む。

まざるな、危険。

「みんなが遊んでるうちにやれよ」

20歳のときに
先輩から受けた言葉を
忘れないようにしている。

このような寒中を過ごして
17年を数えた。

有難うに、ありがとう

年頃は、
22、23歳くらいの女が、
盆すぎの夏空の下を
となり町まで歩いている。

「もうし、米がほしいげんけど」

その、訪ねたあたりは
いまも向本折(むかいもとおり)という
地名で残っており、
広々とした田園の南には
今江潟という沼地があった。

女は、
田を持っている家に
米を求めた。

「米?おまえは何をもっとるがじゃ」

「ゼンじゃ」

「ゼン(銭)?そんなもんいらんわいや。
ほかに何があるがや」

「病院に行けば、何かあるかもしれん」

「ほんなら、箪笥のきもん(着物)持ってこいさ」

「わかった」

空蝉が鳴く道を
ぼんやりと戻ったであろう。

やかましく音をたてる飛行機が
西のほうに幾重かに見える。
それは、この前まで竹で突けと言われた
進駐軍のもので、
この国の翼は、首からもがれてすでに無かった。

「病院から、きもん持ってきた」

「こりゃ値打ちねえわ。
米は、やれん。
そこにあるネギ持ってけや」

「ネギか」

看護婦として勤めた
病院から持ってきた着物が
一合の米にもならない。

女は、もう戻るのも
寂しいやら面倒やら
何とも言えぬ気持ちになり、

「わかった。ネギでええ。ほしい」

と言った。

家の人間が
あごでしゃくった先にあるのは
ネギではなく、ネギの剥き皮だった。

「いやなら、帰れや」

75年前の終戦の夏、
祖母が体験した話だ。

有ることが難しいことを
有難い(ありがたい)と言う。
あたりまえの日常に、もういちど。

有難うに、ありがとう。

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