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雨で、涙が濡れている

彼が、その景色を見たのは
まだ2歳の頃で
とおく、ながい廊下の奥には
粗末なこしらえの階段が
離れへと伸びている。

視点が低いせいか傾斜がこわく、
後ろから追ってきた祖父に
ひし、としがみついては
袖をよく濡らしていた。

園庭の緑には残光がある。

いまも、一葉一葉を
丹念にぬぐう老境の姿があるようで
ひ孫らも一人を除いて
おなじ景色を見ていた。

皐月の空は
悲しいほど青く晴れているのに
雨だけが、何故か
泣いているように見えた。

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