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カウンター越しの大学

地元には、白暖簾が美しい
老舗の鮨屋がある。

その、学びが始まったのは
二月の初旬頃で、
チャーター機騒動のニュースを
店のテレビで見ていた。

三月末は、
本来であれば歓送迎会で忙しいはずだが
お客としてカウンターに座っているのは
自分だけになった。

五月上旬、
「しばらく休みます」の張り紙は、
青空の下なのに
雨で濡れたように見えた。

言葉で表せない数ヶ月間、
カウンターに立つ板前の方々からは
大切なことを学んだと思う。

先の見えない状況下で、
店に似つかわしくない若造が訪れても
いつも笑顔で迎えてくれる。
そこには、
あせりも、あきらめも、
あからさまな隙もない。
厳しい客入りのなかで
鮮度が落ちたものは一度も出てこない。

ある店で、
テイクアウトの弁当を買った。
なにか、少し古いものが混ざっていると感じた。
ある店では、
殺伐とした空気が流れていて、居ずらかった。
お店の方から伝わってくる
心情のように思った。

これが、この数ヶ月間の“普通”だと思う。
冷静にいられるはずなんてない。
だれでも私事を優先する。

ただ、そのカウンター越しの大学だけは、
どんなに世界が崩れようと
職人側の世界は崩さなかった。
仕事は私事の対極にあることを
改めて教えられた。

いま、常連客で
にぎわいが戻ってきている。

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